よってたかって恋ですか?


     11



10月も終わりとなる 31日のハロウィン当日。
陽もそろそろ地の陰へと吸い込まれそうになっている刻限であり、
そろそろ冥府の蓋が開くだろう宵も寸前という頃合いに、
ご近所の中通りを
よいしょよいしょと自転車を懸命に漕いで、お急ぎでおわす聖人がおいで。
この時期の上着としているジャケットやジャンパーを
それぞれに羽織っているものの、
下はロゴの入ったトレーナーと ブルージーンズという組み合わせ、
それがお約束のようにお揃いのいで立ちをしている、
神の子・イエス様と、釈迦牟尼・ブッダ様という最聖のお二人で。

 「そこの辻を曲がれば、校門が見える角まで出るよ。」
 「判った。」

真っ向から伺う訳にも行かぬだろうからと、
やや大外回りとなったれど。
それでも小回りの利く自転車ならではで、
家と家の隙間なんていう抜け道を幾つか通り抜けたお陰様、
時間のロスは少ないまま、
あと少しという順調な走りにて、目的地へと近づきつつある。
イエスが言うには、
彼の守護を担う大天使たちは、
地上の知り合いの山風ファンたちによる、
オフ会を兼ねた、ハロウィンパーティーに
全員で呼ばれているとかいうお暢気さだそうだが。
それでも…どんな突発事が起きるかは判らないから、
ここはやはり急ぐに限る。

 そう、
 大きな声では言えないけれど、ただ今 絶賛緊急事態中

常に装着していてくださいねと彼らから渡された
GPSつき、いざという時は最強のセコムが飛んで行きますという
イエス専用の迷子札、もとえ お守り、
あの、茨の蔓を模した冠を、
出先のクッキングスタジオで
どうやら誰かの荷物の中へ紛れ込ませてしまったらしく。
イエス本人は 単なる忘れ物扱いでいて、
今度逢う機会があったら訊いてみて、
探してもらうなりして返してもらえばいいなんて
そりゃあ暢気そうに構えていたものの。

 『でもネ、
  そんな意図はなくたって、
  キミの持ち物を遠くへ持ち去ったとなれば、
  他からはどう解釈されるものか。』

以前、ちょっと借りたつもりのイエスの鍵で
このアパートのドアを開けたおり、
コキュートスまでの直通という格好で扉が開いてしまい、
そりゃあ恐ろしい想いをしたらしく。
それと同じ扱いにならぬかと、
さすが用心深くて慎重なブッダが案じてくれたのへ、
遅ればせながら危機感を感じたイエスともども。
持ち去った格好になっている某女子高生たちの荷物を目指し、
懸命に自転車で翔っていた最聖のお二人…という次第。

  そしてそして

いよいよ明日に迫った学園祭のアーチ型の大看板を、
学園指定の体操服なのだろう、
お揃いのトレパンにトレシャツというジャージ姿のお嬢さんたちが、
いっ・せーのと声を合わせて立ち上げている。

 「曲がってなぁい?」
 「大丈夫だよvv」
 「じゃあ ワイヤーで固定しよう。」

我こそはという力自慢のみならず、
ちょっと見には ひょろりとか細くて頼りなさげな少女まで、
せーのの仲間内に加わっていて。
普段ならそんな荒ぶる力仕事になぞ無縁だろうに、
こういうイベントが楽しくって仕方がないお嬢さんがた、
重たかったろうゲート仕様の大看板、
自分たちで立ち上げた達成感に はしゃいだ声を上げている。

 「一年生はもう帰りなさいよ。」
 「えー。」
 「先輩たちは まだおいでなのでしょう?」

秋も半ばで日暮れどきが早まっていることを加味すれば
既に結構遅い時刻だが、
今日ばかりは先生方も大目に見ようということか。
自主的に後輩へ帰れと呼びかけているお声以外には、
もう下校の時間ですよと注意されてる気配も見られぬまま。
大きなイベントに向けての設営やら仕込みやらに、
まだまだ元気いっぱいとばかり、
駆け回っておいでの生徒さんたちが多数おいでの女学園であるようで。

 「あああ、やっぱりか。」

女子高生たちばかりが何人も出入り中の校門前まで
不用意に近寄るのも何なのでと。
やや離れた辻角へカンタカ2号を停めて、
こそりとそちらを窺い見やる最聖のお二人。
GPSにて辿った場所は、やはり個人のお宅ではなく、
鉄格子を思わせる黒塗りの柵が巡る、広々とした敷地の奥向きらしく。

 「もう動いてはないから、
  どこかの部屋に置いてあるままってことみたいだけど。」

スマホの液晶画面の上、
かろうじて蔓草の輪っかと判るドットアイコンは、
追跡中もだったが、縮尺を最大に変えても動かぬままであり。

 「このまま放って置かれるなら問題はないんだけどもね。」
 「う…ん。」

恐らくは、イエスがややずぼらをして引っ張り脱いだスカーフに
一緒くたになって引っ掛かっているはずで。
エプロンやスカーフなどなど、
当分は使わないものとして誰も触れぬままになるなら、
イエスが言うように いっそ問題はないのかも。
だが、

 「キミがミカエルさんたちへ
  “どこかで失くしちゃったみたいだ”と話すことで
  事情がちゃんと通じるまでは、何が起きるか判らないかも…。」

 「うう、やっぱり?」

 それってスマホで話してもダメかなぁ。
 う〜ん、そこを考えていたんだけどもね。

そうそういつもいつも
悲観的なことばかりを想定するブッダじゃあないのだが。
こたびは天界からの制裁という規模で巻き込む人が出るやもという
最悪な事態とも隣り合わせなだけに。
それが降るだろう地を前に、ずんと慎重になっているようで。

 「失くされたですって じゃあ私たちで探してみますと、
  こちらからの付け足しも耳に入らないままに運んで、
  あっさり探査して 此処へ直行するかもしれないよ?」

 「…目の前にいて話しているんじゃないなら、
  話半分で動き出しかねない子たちだものね。」

あの大天使らが軽率だと言いたいんじゃなく、
彼らにしてみればお手軽なことよと断じた上で、
電光石火、軽快にさっさか動き出さないかが心配だと。
それは慎重に考えた末の見解を出したブッダなのへ、
それは言えてるかもと、素直に是と応じたイエスなあたり。

  一応は判っておいでならしいです、ヨシュア様も。(苦笑)

ブッダの真摯な様子に引き込まれたか、
イエスもまた神妙な様子になっており、

 「ハロウィンパーティーの途中だったからって、
  仮装のままで来たりした日にゃあ、
  悪魔の陣営が現れたとか誤解されかねないかも。」

 「いや、そこまではどうだろか。」

今時の子らなら、むしろそこのところは理解も追いつくというか、
明日の学園祭の演目への、何か衣装合わせなんじゃあ?なんて

 「……あ。」

自分で言いかかったことから何かしら拾えたか、
イエスが その眸を そのお顔を きらりんと輝かせかかり。

 “あ、何か思いついたな”と

期待半分、だがだが嫌な予感も半分(笑)
ブッダが内心にて感じたそんな間合いに、

 「…あの、もしかして。」

向背からの不意なお声掛けまでが割り込んで来たりして。
何せ 神聖なる女子校がすぐにも見えるよな位置どりの、
曲がり角の縁になろう、ブロック塀に身を寄せて、
何やらぼしぼしと相談する男二人という姿、
見ようによっちゃあ十分不審でもあって。
恐る恐るという声だったのは、
怪しい人から咬みつかれたら怖いという、
及び腰からかしらと思わせもし。
ありゃまあ もう怪しい人認知されてしまったと感じ、
ひゃあとばかりに肩をすくめたブッダと違い、

 「…え?」

そちらは実に素直なもの、
ひょいと顔を上げ、声の主を見やったのだが。






さすがにそろそろ陽も暮れるほどの時間とあってか、
一日中ばたばたしていたお嬢さんたちも、
その手が止まっての集中力も逸れるらしく。
こちらは当日は裏方ゾーンとなるのだろう、執行部のお部屋もまた、
今はエアポケットのような誰も居合わせない時間帯か。
遠くからのざわめきこそ聞こえるが、
室内からは物音も立つこと無くの静かなもの。
明日 生徒らへ配布するものの点検やら、
校舎や講堂、来訪者へも解放されることとなる食堂など
会場となる各所への点検や見回りの最終確認。
それらの申し送りをしつつ、
様々な場面への責任者各位への伝達系統の確認やらと、
中枢となる場所ならではの慌ただしさに追われつつだろう、
生徒たちが出たり入ったりしていたものの。
大窓から滲むように忍び入る オレンジ色の明るみに染まって、
長テーブルや、それを取り巻くパイプ椅子といった備品らも、
息をひそめるように佇んでの静かなばかり。

  ……と、そこへ

外の廊下をややにぎやかな足取りで駆けて来た足音が、
聞こえたかと思ったそのまま、あっと言う間に室内へなだれ込む。

 「やだもぉ、シスターに見つかってたらどうするの。」
 「大丈夫、この時間は外回りへのお声掛けが優先だろうから。」
 「あら、それってどこ情報?」

何かしら息が弾むような勢いで駆けて来てしまったような
彼女らにとって それは大きな突発事に追われたらしく。
よほどに驚いたのだろに、
通り過ぎれば 顔を見合わせて吹き出してしまうことへ塗り変わるから、
何とも伸びやかなものと言え。
明日は売り子だよね、
ええ、私 午前のカップケーキ班、
私はバザーのほうです などなどと。
よほどにお楽しみなのだろう、
そんなこんなを弾む口調で話しつつ、
持ち込んだプリントの束を教卓の上へきれいに揃えて載せたり、
回転式の移動黒板に描かれた表へ、何やらチェックのレ印をつけたりと、
笑顔でお務めをこなしていた彼女らだったが、

 「……あら?」
 「どうしたの?」

壁際に作り付けとなっている棚の上、
段ボール箱がポツンと置かれてあって。

 「うん。
  今日使ったエプロンとか、
  洗濯するものは持って帰ろうかと思ったんだけど。」

どうやらこちらのお嬢さんは、
キッチンスタジオに出向いた顔触れだったようで。
雑具入れのような格好でとりあえずと置かれてあった箱に気がつき、
そういった気を回して中を覗いていたらしいのだが。
エプロンやスカーフ、布巾などを選り出していた手が止まり、

 「ほら、これvv」
 「あ、それってvv」

じゃじゃ〜んっとかざすようにしてあとのお友達へ見せたのが、
他でもない…緑色した柔らかな蔓を輪っかにした、

 「イエスさんの髪飾りじゃない。」
 「うん。スカーフの中に引っ掛かってたの。
  あ、マジックテープになってる。」

端っこのところに手を掛け、
一応は お手柔らかに、びびぃと引っ張って剥がして見せる彼女の元へ、
あとの二人も駆け寄って来る。

 「え〜、どれどれ。あ・ホントだ。」
 「作り物なのに柔らかくって本物みたい。」
 「それに清々しいバラの匂いもするvv」
 「そういう素材があるのよ、きっと。」

笑顔になってわいわいと、
三人が三人ともで取り沙汰しているところを見ると。
執行部の出し物への関係者だから…という順番だけとは思えないほどに、
ご本人が思うよりずっと幅広く、ここでは話題の人であるらしく。

 「マジックテープってことはフリーサイズなんだ、これ。」
 「え〜、なに考えてるのよ。」
 「だってぇ。」
 「およしなさいって。人様の私物だよ?」
 「でも、黙っていれば判らないわよ?」
 「あ、そういうのいけないんだ。」
 「そういうけど、じゃあやってみたくはなぁい?」
 「やってみたいっvv」

きゃしゃな肩を寄せ合いへし合い、
ちょっとした茶目っ気、
ちょっとした悪戯心を思いついたお嬢さんたちなようですが……。






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  *何でか冗長になる今回ですね。
   ブッダ様が子供に戻ったエピソードで、
   一旦切った方がよかったのかも…。
   う〜ん、後悔 役立たず。(こらこら)

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